神出病院(精神科病棟)での虐待事件について
こんにちは。今日は先日ニュースで知った、神出病院という精神科の病院での事件についてまとめたいと思います。看護師という立場を利用した、精神疾患・認知症の方に対する許されない行為です。個人の倫理観のみならず、病院の体制、また行政の監視体制にも問題があったと思わざるを得ない事件でした。この事件は精神科の潜在的な問題を表していると思います。
事件の概要はこちらです。看護師6名が、入院患者に虐待をしていたおぞましい事件です。気分を害されそうな方は見ない方が良いと思います。詳細を書くのを躊躇うくらいの内容です。
hdttps://www.asahi.com/articles/ASN3S3JSKN3RPTIL02G.html
事件の経過
2019年12月 事件の発覚
主犯格の容疑者が、女性への強制わいせつをした容疑で逮捕。スマートフォンを押収し、取り調べの際に患者に対する虐待の動画を発見し、今回の事件の発覚に至った。
2020年3月24日 逮捕
容疑者6人(26~41歳)が準強制わいせつ容疑、暴力行為等処罰法違反の疑いで兵庫県警に逮捕された。
2020年6月23日 神戸地裁の初公判
検察は容疑者2名に対し、準強制わいせつ罪に問われている容疑者に懲役3年、監禁の罪に問われている容疑者に対しては懲役1年6ヵ月を求刑した。
2020年9月10日現在 容疑者の求刑・判決
https://ja.wikipedia.org/wiki/神出病院 より引用
神出病院の対応
令和2年3月4日の連絡
この度は、当病院の職員及び元職員が、患者様に違法行為をしたという疑いで逮捕されるという事案が生じました。当病院として、この様な事態を招くに至ったことは、誠に遺憾であり、患者様はじめ、ご家族様、地域の方々に深く謝罪するとともに、今後二度とこの様なことが起きないように、病院として全力を尽くす所存です。
当病院の職員が患者様に不適切行為を行なっていたことは、警察からの連絡があり、当病院も把握し、当病院としても独自で調査をしており、事件の関係者も責任をとり、退職させています。
さらに、関係諸機関に当病院から事実を伝えており、さらに被害者様のご家族に説明を始め、謝罪していたところです。病院での調査については、現在、警察の捜査中であり、内容を明らかにすることは差し控えさせていただきます。
当病院としては、再発防止に努めており、病院内に虐待防止委員会を、今年の1月に立ち上げ、現在まで5回の会合をもっています。今後、警察の捜査には全面的に協力していくつもりです。
http://www.hyogo-kinshukai.jp/kande/img/gorenraku.pdf
令和2年3月26日の連絡
この度は、当 院の職員及び元職員が患者様に違法行為をした疑いで逮捕 される事案について、患者様・ご家族様に多大なるご迷惑とご心配をおか けいたしておりますことを、心よりお詫び申し上げます。
現在、警察の捜査と合わせて、神戸市保健所の実地調査・指導を 3 月 6 日、3 月 13 日の 2 回受けており、今後も数回ある予定です。また、精神科 病院協会により検証、助言を受ける予定です。
今回の事案を受けて、当院では院長である大澤次郎を委員長に虐待防止 委員会を立ち上げ、再発防止に向けて取組んでおり、現時点で計 7 回の委 員会を重ねております。委員の構成は、院長、副院長、事務部長、看護部 最高責任者、看護課長 2 名、看護係長 2 名、看護主任、精神保健福祉士係 長です。また、客観的視点からの意見を積極的に取り入れるために、医療 の見地から他医療機関の院長と、有識者として看護専門学校の学校長を委 員会に招聘しております。今後もその枠を広げ、多方面からご意見を頂戴 する計画になっております。現在のところ、別紙の内容にて取り組みを随時進めているところです。
<取り組み内容>
① 病室やトイレなどプライバシーには配慮した上で、監視カメラ等の増 設を検討する。またカメラの高性能化、音声録音についても検討する。
② 職員の意見や部署内部の情報をより多く収集するために、意見箱を増 設する。
③ 看護部職員以外による夜間の抜き打ちラウンド(院内巡回)を実施する。
④ 看護部最高責任者が新入職 1 年目、2 年目の職員を中心に、業務や職 場環境に疑問点や相談事がないかヒヤリング、カウンセリングを行う。
⑤ 職員間の馴れ合いを生じさせないために、職員の勤務メンバー(特に 夜間勤務)が固定化しない勤務体制をとる。 ⑥ 院内研修にて虐待防止のための研修を定期的に実施する。
<取り組みの進捗状況>
①’ カメラ設置業者と設置個所を確認しております。 ②’ 職員用の意見箱を 2 箇所から 5 箇所に増設しました。また、職員個人 の携帯電話端末からも WEB で意見を匿名投稿できる仕組みを作りまし た。患者様用の意見箱は 9 箇所設置しております。 ③’ 月に 2 回から 4 回の巡回を行います。 ④’ 4 月初旬から随時実施します。 ⑤’ 勤務シフト作成には注意喚起し、看護部、労務部でダブルチェックを 行います。 ⑥’ 第 1 回目は 4 月に全職員を対象とした研修会を日本精神科看護協会に 依頼中です。
今後も、再発防止の取り組みを進め、改善に向けて尽力してまいります。 また、委員会の取り組みについては随時、お知らせをさせていただきます。
http://www.hyogo-kinshukai.jp/kande/img/oshirase0903.pdf
令和2年5月15日の連絡
この度は、当院の元職員が患者様に違法行為をした疑いで逮捕される事案に ついて、患者様はじめ、ご家族様、地域の皆様、関係者の方々に多大なるご迷惑 とご心配をおかけいたしておりますことを、心よりお詫び申し上げます。
現在は新型コロナウイルスの緊急事態宣言の影響もありますが、今回の事案 に関して、警察の捜査に全面的に協力し、保健所の実地調査・指導についても真 摯に対応している状況です。
当院では虐待防止委員会で対策について話し合いを重ね、下記の取り組みを 進めております。
警備員の配置について 患者様や職員の安全確保の為、警備会社と契約し、5 月より 24 時間体制で 施設内の警備や各病棟の夜間巡回を実施しております。 監視カメラの増設について 暫定措置として、今回の事案があった病棟の死角に1台増設する事が決ま りました。既設の監視カメラについても、確認しやすいように設定を変更 いたしました。 職員意見箱について 定期的に院長が確認しており、病院の管理体制、職員の処遇や職場環境の 改善を進めていく所存です。また、虐待が疑われる内容があれば、院長が 調査をする体制をとっております。今後、設置箇所をさらに増やす予定で す。 抜き打ちの夜間院内巡回について 4 月中にも複数回実施いたしましたが、特に異常はないことを確認してお ります。今後も継続します。 職員の勤務体制(特に夜間)について 夜間職員の担当者に偏りがないよう、看護部と労務部で毎月ダブルチェッ クをしています。また、職員の配置が固定化しないよう、定期的(2年毎) な異動も検討しております。 新入(1、2 年目)看護職員の面談について 入職から1ヶ月、1 年が経過するゴールデンウィーク明けより個別面談を 実施しております。 虐待防止に向けた研修会について 日本精神科看護協会に全職員対象の研修会を依頼しており、4 月 14 日に実 施を予定しておりましたが、緊急事態宣言のため延期となっております。
今後も、再発防止の取り組みを進め、改善に向けて尽力してまいります。また、 委員会の取り組みについては随時、お知らせをさせていただきます。
http://www.hyogo-kinshukai.jp/kande/img/oshirase0515.pdf
令和2年8月18日
本日、神戸市健康局保健所より改善命令を受理いたしました。
多くの患者様をお預かりする病院として、今般の命令を重大なことと受け止めております。事件発覚後、行政の指導に従って参りましたが、今後におきましては違反事項の再発防止はもちろん、医療安全体制をさらに構築し、患者様と社会からの信頼回復に向けて全力で取り組んで行く所存です。
命じられた措置を速やかに講じ、その結果を2020年8月31日までに神戸市へご報告させていただきます。取組みにつきましては、適宜ホームページにてご報告させていただきます。
http://www.hyogo-kinshukai.jp/kande/index.html
神戸市のからの報告
令和2年8月18日報道:精神保健福祉法に基づく精神科病院への改善命令について
改善命令の内容および具体的対策
(1)管理者が責任をもって、風通しのよい組織風土を醸成し、患者の人権に配慮した適正な処遇の確保及び処遇の改善のために必要な措置を講ずること。
- 不適切行為が疑われる事案が発生した場合には、速やかに神戸市(保健所保健課)に報告すること。
- 病院職員や患者が不適切行為を発見した場合、神戸市(保健所保健課)に速やかに通報できるよう、その通報先を院内に掲示するとともに、すべての職員に周知すること。(公益通報制度)
- 不適切行為を発見したり、疑いを持った職員が、上司や同僚に報告・相談し、速やかに管理者へ情報が伝わる制度を設けること。
(2)看護職員による入院患者への暴力など、患者の人権を侵害する著しく不適切な行為が院内で発生したことが明らかになった。二度とこのような事件の発生を許してはならず、早急に具体的かつ抜本的な対策を講ずること。
- 虐待防止マニュアル等を整備すると共に、虐待発生時における管理者への報告を徹底する等院内での報告相談体制の整備を行うこと。
- 外部人材を招聘して院外の意見も積極的に取り入れられるようにするなど、実効性のある虐待防止策を講ずること。
- 管理者は、少なくとも1年に1回以上、全ての従事者を対象として人権擁護及び虐待等不適切行為の防止に係る研修を実施すること。
(3)入院患者の隔離について
隔離等の行動制限を行う場合は、法令に則り所定の手続きを行うなど、法令の遵守を徹底すること。
- 隔離を行う場合に遵守すべき事項は、法令・通知に明確に定められている。複数の患者を閉鎖的環境の部屋に入室させることは明確な違反であり、厳に行わないこと。
- 隔離を行う場合は、必ず精神保健指定医の指示に基づくこと。指定医は隔離の相談があった際は速やかに診察し、適否について判断を行うこと。
神戸市での精神科病院における再発防止への取り組みについて
(1)精神科病院で不適切行為が発生した場合、法令上、病院や発見者に行政への通報義務が課されていないため、国に対し、法改正等を要望。
(2)実地指導の強化:実地指導の実施時間を拡大し、入院患者や医療従事者からの聴き取り調査にかける時間を大幅に増やす。
(3)行政への確実な報告・通報の徹底:
現行制度の中で速やかに対応すべく、神戸市独自の対策として以下の項目の遵守を、市内の精神科病院(14病院)に対して求める。
①病院内で不適切行為が発生した場合、病院として必ず神戸市に連絡すること。
②病院職員や患者が不適切行為を発見した場合、神戸市に速やかに通報できるよう、その通報先を院内に掲示するとともに、すべての職員に周知すること。(公益通報制度)
③不適切行為を発見したり、疑いをもった職員が、上司や同僚に報告・相談し、速やかに管理者へ情報が伝わる制度を設けること。
(4)有識者会議(神戸市市民福祉調査委員会・精神保健福祉専門分科会)の開催:学識経験者等に実地指導の実施状況等を検証していただき、随時改善を図っていく。
https://www.city.kobe.lg.jp/a00685/763509813271.html より引用
看護師として思うこと
この事件を知ったとき、とても衝撃を受けた。おぞましいとしか言えない事件だと思った。精神科の看護師として、人として倫理に反する行為である。同じ看護師として恥ずかしく、看護師の信用を損ねる行為としか言いようがない。
閉鎖病棟はその特性上、外部の人との交流がなく孤立しやすい。患者が家族や関係者とつながる手段は、電話やメール等のみで、面会や外出は医師の許可がないとできない。患者は、医療者に自分の処遇を頼らざるを得ない状況である。夜勤帯での行為と聞くが、夜間に看護師数名で騒いでいたらこのおぞましい行為に気づいていた患者もいたかもしれない。いつか自分もされるかもしれないという恐怖を感じたまま、誰にも言えなかったり、言っても状況が変わらなかった場合の絶望を想像すると心が痛む。精神症状が悪化しかねない状況である。精神疾患は、他の疾患のように、血液データや画像等で状態が説明できる疾患ではない。精神疾患の増悪は、数値化して測れるものではない。また、精神的な影響はすぐに表出するとは限らない。もしかしたら数年後にこの事件の影響で悪化するかもしれない。
統合失調症は原因がまだ明らかになっていないことも多く、もしかしたら悲しい成育歴が影響している場合もある。妄想幻覚を主訴に入院していた統合失調症の患者さんが、成育歴が明らかになるにつれ、ひどい虐待の影響で統合失調症のような症状が現れていたことが分かり、診断名が統合失調症から被虐待に変更になった例を知っている。症状だけで統合失調症と診断されている方は珍しくない。被害者の方がこの精神病院に入院している経緯は分からないが、傷ついた過去がある方かもしれない。そんな方に対し、人権を踏みにじる行為をすることは許されないことで、倫理観と想像力が欠如している。ましてや患者の安全を守るべき看護師は絶対にしてはいけない行為だと思う。
しかし、看護師個人の問題だけでなく、組織が患者を守る仕組みが機能していなかったのもこの事件の特徴だと思う。人間は間違いも犯すが、組織としてそれを正す仕組みがあれば今回の事件は防げたのではないかと思う。
精神疾患、認知症はだれでもなりうることで、この被害を受けるのは明日の自分達かもしれない。
患者の安全を脅かす、おぞましい事件がなくなることを願って、精神科病棟のあり方を考え直す機会になることを心から望みます。